一般社団法人MIRAIぱちんこ産業連盟(東野昌一代表理事)は2月16日、オーラムにおいて、第4回MIRAI公開経営勉強会を開催した。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、会員201名・業界関係者55名(オンライン参加238名)が参加した。開会では、東野代表理事が、「大山会長に会いたいという夢が叶いました。パチンコ業界は厳しい状況ですが、明るい未来へのスタートの日になりました」と挨拶した。
アイリスオーヤマ(株)の代表取締役会長・大山健太郎氏は、「いかなる時代環境でも利益を出す仕組み」と題し講演した。
(以下講演要旨)
■生き残っていくための「強み」
父親は、私が19歳の時亡くなり、長男だった私は、東大阪(大阪府)の町工場を継ぎました。当時は、人材がいない、資金力無い、技術力無い、得意先無いという中でのスタートだった。何か強味がなければ生き残れないと考え、唯一、私には強味がありました。19歳という若さでした。最初は、生活のための仕事をしました。少しずつ軌道に乗ってくると、下請けだけではだめだ、自分で値決めができるモノを売りたい、自社製品を作りたいと思いました。
■プロダクトアウト(作り手がいいと思うものを作る)
そんな中で最初に手掛けたのが、第1次産業(漁業の養殖用ブイ、農業の育苗箱)の資材商品。ところがオイルショックで経営を見間違えました。経営危機が訪れた。その時、本社を閉鎖し、リストラをしなければならなかった。その時思ったのが、会社の目的は永遠に存続する事。いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立する事です。
■マーケットイン(売れるものだけを作り、提供する)
自社の強みが生きて、そして収益性が高い、将来性のある業種を探しました。そんな中、我が家の庭で生まれた、育苗箱で培ったノウハウが生きる、園芸でした。園芸用品(プランターなど)の開発で、育てる園芸から飾る園芸へとガーデニングブームをけん引する事ができました。次にペットブームに着目した商品開発も好調に推移する事ができました。そして収納用品である「クリア収納ケース」。しまう収納ではなく探すイライラを解消できる見える収納ケースがあればいいなと思ったからでした。この発想は誰でも思いつくのでしょうが、当時、原料がなかった。2年ほどかけて原料を開発し、オンリーワンになれました。でも、それは5年も続きません。同業他社が20社以上になり、競争が厳しくなりました。オンリーワンを守るのが本来でしょうが、利益が出せないようではダメと、日本市場をあきらめ、アメリカ市場に乗り出しました。
■アイリス製品はなぜ安いのか
我が社は開発から製造、販売に至るまで、一貫としているベンダー企業。それによって適正な利潤で、良いものを安く提供できる。私は、価格に関して足し算はしません。消費者は真剣勝負で財布の中身を見ながら、商品を選んでいるのです。いくらだったら消費者に買ってもらえるかの値ごろ感を絞り、引き算して決めています。その為の努力は惜しみません。
■サプライチェーン
今はサプライチェーンが多くの企業の本流のようです。ほとんどの国内企業は、下請けの部品メーカーや材料メーカーから部材を調達して、組み立てる企業になっています。私のスタートしたのは町工場であり、孫請けの立場でした。その立ち位置からは、第3次下請けから第2次下請け、そして組み立てまで、どれだけの人件費と輸送コストのロスを重ねているのでしょうか。市場に提供する流通段階でも同じことがあります。大手家電メーカーは全部組み立てだけで、同じような事をしている訳です。同じ部材を下請け企業から集めて、利益が出る製品だけを作っている。売れなくなれば発注を止めるだけ。価格を抑えようとしてもなかなか安くはできない。アイリスはできるだけ内製化にこだわっています。ビスの一つまで作ろうよと。最終的に製品が売れて利益が出ればよいのです。リスクをとってコストを下げる事を選ぶのか、リスクをとらずに売れなくなれば下請けへの注文を止めるサプライチェーンを選ぶのか。
■いかなる時代環境でも
私は、オイルショックで死ぬ思いしました。90年代土地バブルが崩壊して価格破壊の中でも確実に売上・利益を伸ばす事ができた。そして金融崩壊・アジア危機の時も利益を伸ばす事ができた。そしてリーマンショック、東日本大震災、さらにはコロナ禍と、10年単位で想定外の事が起こっています。起こるという事を前提に考えていくと、会社で働く人の給料は減らされるものです。人員整理もあるでしょう。でも庶民の生活というのは変わりません。3食を2食にする事はないでしょう。贅沢な食材から質素にする位でしょう。私たちの生活というものは、本来、景気のブレには左右されていません。ところが業界視点となると、家電であれ、車業界であれ、売れたり売れなかったりします。そこで生活に密着したところのビジネスをどう広げていくのかという事がポイントだと思います。
■プロダクトアウト
アイリスは東日本大震災によって大きく変わりました。私は「ピンチはチャンス」という言葉を常々言っています。これまでのアイリスは生活用品でコツコツと売上を伸ばし、利益を上げる事ができました。そして、2011年3月11日、アイリスも被災しました。そんな中、全国各地からボランティアの方々、支援物資の数々。こうした中で地元企業としまして、自問自答しました。ジャパンソリューションに貢献したいと思い立ちました。そこから、省電力に貢献できるLED事業、そして精米事業を立ち上げました。東北復興を考えた時、一番に地域の強みを活かせる農業、特に東北の米に着目したのです。そして、私が毎日食べているおいしい米を多くの消費者に届けたいと思ったのです。マスコミは、米は高い高いと報じます。政府は米の生産者に補助金、しかし、消費者に、おいしい米が供給されているでしょうか。買い手(顧客)のニーズよりも企業側の理論を優先させるプロダクトアウトのまま、消費者は離れていく。この米については精米技術に課題がありました。アイリスはその精米の課題を解消するために工場を建てました。何かおかしいと思うところに私はビジネスチャンスが潜んでいると思うのです。
■ユーザーインの発想
多くの家電企業はモノを見ます。そしてモノを改良しようとします。アイリスは消費者の不足、不便を解決しようという事をモットーにしています。そんな一つに、アイリスのふとん乾燥機があります。もともとは梅雨時のふとん干しを補完する製品です。アイリスは、ふとん乾燥機はふとん温め機じゃないかという発想で、アイリス製品、今、冬に大人気を博しています。そうしましたら需要が10倍になりました。こういう具合に生活の不満からモノを考えていく事から、アイリスの製品は成り立っています。しかもお陰さまで利益もしっかり出せています。
■パチンコ
パチンコもビジネスですから、ただ、単に玉がよく出るとか、新台がよく入替えしているとか、それも大事でしょう。しかし、環境が大事だと思います。人間は本能の生き物です。色々な欲があります。射幸心もその一つで、無くなる事はないでしょう。ですから、いかに健全で楽しく遊んでいただける環境を提供する事ではないでしょうか。アイリスは今、空間デザインまでをも手がけるようになっています。アイリスは何で安いのかと言われますが、流通コストという無駄を省く事から進展した企業です。来られるお客様を見れば、答えはお客様にあります。本当にお客様のために何をするのかを突き詰める事、その意味では、サービス業は大きく変わると思います。