大阪府遊技業協同組合(平川容志理事長)は6月21日、遊技会館会議室において、都留文科大の早野慎吾教授を招いて「大阪府のギャンブル依存対策のための大阪府ギャンブル実態調査研究成果説明会」を開催した。説明会には、組合員の他、一般社団法人 日本遊技関連事業協会・近畿支部、関西遊技機商業協同組合、回胴式遊技機商業協同組合近畿支部の関係者など約30名が参加した。
■降り懸かる火の粉は拂はねばならぬ
大遊協を代表して、平川理事長は開催意義を伝えた。「政府は、2016年『特定複合リゾートの区域の整備の推進に関する法律』(IR推進法)を施行、2018年にIR整備法を制定しました。附帯決議として、ギャンブル等依存症対策基本法が打ち出されました。大阪府・市は2022年4月に整備計画を政府に提出しました。2023年4月に大阪府・市が申請した夢洲での整備計画は認定を受けました。一方で、ギャンブル等で包含されたパチンコは、依存問題の矢面にされ、大阪府議会で2022年10月26日、ギャンブル依存症対策を推進する条例が成立するに至りました。自治体独自で条例を制定するのは全国初の事態となりました。パチンコ業界として、のめり込み問題をギャンブル依存症と同じように取り扱うこと、国民(府民)にも同様のイメージを持たれることに、業界として危機感を抱きました。そうしたことからエビデンスの必要性を感じ、2023年6月23日、大阪市天王寺区のシェラトン都ホテル大阪4階『浪速の間』において、早野教授を招いて『社会学から見たギャンブル依存~現場の皆様がギャンブル依存を正しく理解するために~』と題した講演を催しました。そして、1万サンプル規模のギャンブル依存調査を継続的に実施し、早野教授が東京都遊協と実施している4万サンプルの調査結果との比較を含めて、大阪府の実態を明らかにしていくデータ収集を実施依頼していました。2023年7月初旬には、西日本エリア版の新聞3紙(毎日新聞、産経新聞、朝日新聞)の朝刊に、大遊協が取り組む依存症対策をテーマにした全面広告を掲載するなど、大遊協が2003年から取り組んできた依存(のめり込み)問題対策というものを広く知って欲しいという取り組みを行いました」。
平川理事長の紹介を受けて、早野教授は大阪府に関する調査研究について説明を行った。
■要旨
政府および運営事業者は、ギャンブルに関連する問題を最小限に抑えるために、責任あるギャンブル(RG)の取り組みとプログラムを実施する必要があると思います。RGの取り組みとプログラムは、ギャンブル参加者が支出を妥当なレベルに抑制できることを支援しなければならないでしょう。大遊協の依頼のもと、2023年12月、大阪統合型リゾート(IR)において、責任あるギャンブルに関してオンラインによる1万サンプル規模のギャンブル依存調査を実施しました。その対象は、公営競技、宝くじ、パチンコ・パチスロなどと比較しながら検証しました。結果として、パチンコ・パチスロにおいては特有の特異要素は見られませんでした。パチンコ・パチスロは、宝くじや公営競技と比べ継続率(のめりこむ傾向)が最も低く、1年以上離れていた人の場合の回復率(ギャンブル依存が疑われない値になった割合)は、高い数値でした。大阪IRカジノについて、その説明趣旨を見ると科学的根拠は見受けられず、パチンコ・パチスロを問題視する自治体関係者の言動面がクローズアップしているように見受けられます。RGは、ギャンブルに伴う社会的リスクの発生を抑制することを目的としています。科学的根拠を欠いた取り組み、プログラムは、ギャンブル依存の本来の解決にはつながらないことは、海外の研究成果からも明らかですと思われます。調査では、参加者の8割以上が年収600万円以下であるの層が多いパチンコ・パチスロ。パレートの法則で構成されるとみられるカジノとの比較では、参加する客層が相反していると見受けられます。大阪IRカジノにおけるギャンブル依存症対策は、カジノに参加する客層に合わせた対策が望まれます。
※調査について。2023年12月22~26日にかけ、大阪府内の1万人を調査対象(15万6290サンプル配布)に、ギャンブル依存と大阪IRカジノに関するインターネット調査を行った。基本は9項目(性別、職業、年収など)、ギャンブル関連36項目(ギャンブル行為、費やした時間と金額など)、大阪IRカジノに関する項目など。
※責任あるギャンブル(Responsible Gaming)については、ギャンブリングに関連して起こる可能性がある弊害について、それを予防し、できるだけ少なくするためのフレームワークとその実践のことを意味する用語。
※パレートの法則については、上位2割のグループ(富裕層等)が全体を支えているというイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した学説。
■所感
早野教授は、2020年に東京都遊技業協同組合から依存問題について調査依頼を受けた。その際、研究者の立場から客観的な姿勢を貫くことにこだわっていたが、阿部恭久理事長(東京)からは、業界にとって都合の良い報告を求めているのではなく「本当の実態が知りたいだけ」との方針を確認して命を受けて、客観的調査を継続している。
①ギャンブル等依存症対策基本法では、公営競技とパチンコは規定されました。しかし、世界的には宝くじは、依存症対象とされており、調査では対象として組み入れました。その中では、宝くじの参加数と継続率(常習性)は、約48%と多い傾向があります。パチンコは約26%でした。宝くじと公営競技は、投資額は青天井であり、パチンコの遊技(時間消費型)による投資額には限界があり、期待報酬効果(射幸性)が低くは低いといえ、持続性も高いとはいえません。
②娯楽(レジャー)の種類が多様にあるかどうかの地域差。都道府県別の調査結果からみると、人口の少ない地域ほど、依存症の疑いの数値が高い傾向が見られました。これには娯楽(レジャー)の種類が大きく関係していると考えます。人口が少ない地域は娯楽が少ないため、ギャンブルに向かう傾向があるのだと思われます。その点で、大阪の場合は、全体から見ても、高いとはいえません。実際、都道府県別にみた依存度、低い値でした。
③調査継続の意義。大遊協では、今後もこの調査について継続の考えでいます。流行の変遷や経済・社会情勢により移り替わりはあるかもしれませんが、継続して調査することにより、注意すべき対策が見いだされると考えます。調査・エビデンスの積み重ねは大変意義のある取り組みだと自負しています。研究者冥利として、変化や兆しがデータで顕れた場合は、速やかに問題提起していく姿勢でいます。
④エンタメ化の重要性について。今、一番成功している傾向にあるのは、中央競馬のエンタメ化は見習う必要があるのかもしれません。エンタメとは、エンターテイメントの略語であり、人々が楽しむための様々な活動やコンテンツを指す言葉です。 人々の暮らしの一部として溶け込み、日常生活に彩りを加える役割を果たしているといえます。中央競馬は、何もしていないのに、ライトユーザーを多く取り込んで依存問題を薄めています。
⑤遊技機の高騰化に対する憂慮。パチンコは身近で手軽な遊技だととらえています。しかし、今の遊技機の高騰化については、憂慮されます。ホール営業、遊技ファンを苦しめる高騰化は、パチンコ業界にとって新規(ライト)ファン開拓につながるのかが理解できません。業界としてパーパス「遊びの力で、心を元気。」というパチンコ業界全体の連携によるエンタメ推進が必要不可欠と強調しました。
早野慎吾(敬称略)
都留文科大学 文学部 国文学科 教授
立川日本語・日本語教育研究所 所長
専門は、言語心理学、社会心理学。特にフィールドワークとデータ解析を得意としている。ギャンブル依存とギャンブル広告の因果関係を研究対象としていたことで、パチンコ業界から研究依頼を受けるようになる。現在は、心理学的立場からAIによる人工感情の開発も行っている。
日本語学(方言)。近年は感情表現、言語景観、マンガを使った言語教育、ギャンブル障がいと宣伝広告の関係などを分析している。