NPO法人依存学推進協議会(西村周三理事長)は10月28日、京都リサーチパーク(京都市)において第9回となるシンポジウム「ギャンブル等依存症対策」〜国・地方自治体・事業者・民間団体、それぞれの役割〜」を開催した。IR法案、ギャンブル等依存症対策基本法案を取りまとめ、精力的に説明役を果たし、内閣官房ギャンブル等依存症対策総括官の中川真氏を迎えた。
中川氏は、今年7月成立したギャンブル等依存症対策基本法(10月5日施行)のもと、10月19日ギャンブル等依存症対策推進本部(本部長・菅義偉内閣官房長官)の設置に伴い、基本計画をまとめる事務局の総括官を担当する立場で平成31年4月までに「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を策定、ギャンブル等依存症問題啓発週間(5月14日〜20日まで)につなげていく考えを説明した。その中で特に、重層的多段階的取組の必要性を強調した。
IR誘致を目指す自治体有志として、北海道苫小牧市総合政策部国際リゾート戦略室から町田雅人室長、大阪府・大阪市IR 推進局の金森佳津理事、和歌山県企画総務課の寺本雅哉IR推進室長、長崎県・佐世保市IR 推進協議会有識者委員会の菊森淳文座長が依存対策への問題意識と対応について述べた。
一般社団法人RCPGの西村直之代表理事は、IR法案審議から法案成立という中で世論は今まで見た事のないカジノが上陸する事への動揺・不安が如実に出た現象としてギャンブル等依存症対策法というシンボルとなっているという見方を示した。本来手を差し伸べなければならない依存に苦しむ人の多くは、そうした制度や仕組みが届きにくい隙間にあると、過剰に反応する情緒対応より、データに基づいた客観的な調査により冷静に対応するべき機会とした。
公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表理事は、IRが出来ようとする中で、依存症を心配する関係者の声は反映されにくい状況が続いている事を指摘。依存症対策として、自治体は安易な対応のみが実施されはじめているが、実効性が伴っていないと指摘した。
同協議会の西村理事長からは、依存は悪い事ではないと思うが、昨今は依存症として問題視されている。その中で気づくのは、人材不足。重層的多段階的取組の通り、色々な分野の人が連携して、勉強しあって依存症対策に向き合っていくべきとした。特に依存症では、家族の負担軽減が喫緊の課題と指摘。IR展開では、言葉の壁を乗り越えるエンターテイメントに期待した。
これを受け、中川総括官は、依存問題に対する各関係者の責務について強調。依存についての調査研究が進んでいない中、基本計画にも盛り込みたいとした。事業者の責務については、より明確に(依存予防のための社会還元を見える形)していく方向性を示唆した。田中代表からは、基本計画を平成31年4月に策定するような動きについて、性急すぎると指摘。
「基本計画を4月に策定する旨は、本部長の命であり、ギャンブル等依存症問題啓発週間につなげスタートしたい。事業者の責務(依存対策財源)については、すみやかに作りたい。また3年をサイクルとしてPDCAを義務付けていく中で見直ししていく。公営競技の他、遊技(ぱちんこ)は民間事業です。自営業の方が毎年確定申告をどうするかという事と同等であり、どういう形で公租公課以外の財源負担を課す事ができるかは、慎重にならざるをえないとの国会でもすでに議論されています。今後、どう事業者の責務を具体的にしていくかを考えていきたい」(中川統括官)。
その後、参加者からパネラーに対して質疑応答を行った。「隙間をなくしていく方策について」「啓蒙啓発においてどういった標語が伝わるか」「依存調査の設問はどういう基準で作られるのか、日本版はできないか」「若年層への啓蒙啓発の有効な方策について」「IR誘致を希望する自治体の基礎調査の取組みについて」など、活発なやりとりがあった。
谷岡副理事長は、「ギャンブル依存症については、海外で知見が先行している状況です。日本はそういった知見も参考にしながら、より良いIR、依存症対策にしていっていただきたいと思います。これまでギャンブル依存症は恥ずかしい事として隠していたと思います。けっして恥ずかしい事ではなく、皆で協力し合って良くしていく方向に向かうべきです」と依存学推進協議会の活動意義と協力を呼びかけた。
【コーディネーター】
谷岡 一郎(NPO法人依存学推進協議会 副理事長/大阪商業大学 学長)
【パネリスト】
中川 真(内閣官房内閣審議官)
町田 雅人(北海道苫小牧市総合政策部国際リゾート戦略室 室長)
金森 佳津(大阪府・大阪市IR 推進局 理事)
寺本 雅哉(和歌山県企画総務課 IR推進室長)
菊森 淳文(長崎県・佐世保市IR 推進協議会有識者委員会 座長)
西村 直之(一般社団法人RCPG 代表理事)
田中 紀子(公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事)
西村 周三(NPO法人依存学推進協議会 理事長/医療経済研究機構 所長)
(敬称略)
中川総括官
西村(直)代表
田中代表